ネクラーソフ「赤鼻の酷寒(マロース)」抜粋 その4
《みるがいい、若い女よ、もっと大胆に
酷寒(マロース)の主がどんなものだか! このわしのように
若者よりも一層力強く、美しい者を
おまえは一度でも見ることがあったか?
吹雪も 雪も、また霧も
いつも酷寒にはへりくだっている
八重の潮路の大海に行き──
そこに氷の宮殿(みや)をたてよう。
わしはおもいきめたのだ──大河を
いつまでも重圧(おもし)の下(もと)にとじこめよう
世にもとうていかけられぬような
氷の橋をかけてやろう。
そこには速い、騒々しい水が
せんだってまで自由に流れていた──
今はもう 人が歩き、荷をつんだ
荷馬車が通っているだろう。
わしは好む──深い墓穴の中の死人たちに
氷柱(つらら)の着物きせてやること
また 血管の中の血を凍らせ
頭蓋の中の脳みそを凍らせること。
善からぬ盗人には痛い目を
騎(の)り手と馬には恐怖(おそれ)をあたえるような
大きな爆音を、たそがれ時分
森にたてるのを、わしは好む。
若女房たちは、森の精をののしりながら
急いでうちへ帰るだろう。
騎馬の、また徒歩(かち)の酔いどれどもを
たぶらかすのは一層おもしろい。
おしろい要らずで面(つら)中を白く塗りたくり
鼻は火と燃えたたせ
あごひげは、斧ででも打ち割らなければ
とれないほど しっかり手綱へ凍てつかせよう!
わしは金もち、金かんじょうなどしなくても
財産がへるようなことはない
わしはわが王国を飾ってる
ダイヤモンドで、真珠で、また銀で。
わしといっしょに行くがいい、わが王国へ
そしておまえは、王妃になるがいい!
わしらはりっぱに冬を治めよう
そして夏には深く眠ろう。
行くがいい、可愛がろうぞ、あたためようぞ
空色の宮殿をあてがってやろうぞ……》
かくて、酷寒(マロース)の主はかの女の頭上で
氷の矛をふりまわしはじめた。
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