奈良散歩 その35 東院堂の観音
薬師寺の最後に、落ち着いた佇まいの国宝建築である東院堂を見た。
東院堂は、養老年間(717~724)に長屋王の正妃である吉備内親王が母の元明天皇の冥福を祈り建立した。
現在の建物は、正面7間、側面4間の南向き入母屋造本瓦葺として1285年に再建されたが、1733年に西向きに変えられた。
東院堂の中に入ると正面に、お目当ての東院堂の本尊である聖観音菩薩像がそこにあった。
この聖観音菩薩は奈良時代以前の白鳳時代(飛鳥時代)に造立されており、衣の襞(ひだ)や浮き上がった足の美しい表現などはインドのグプタ朝時代における文化の影響を受けたとも考えられている。
観音菩薩には人間の姿をした像もあれば、頭上にいくつもの顔、体には何本もの手を持った像もあり、怒った顔をした像や女性のような観音菩薩もいる。
代表的な観音が人間の姿をした観音で、これが東院堂の本尊と同じ造りで、聖観音菩薩と呼ばれる像である。
聖観音菩薩は、十一面観音以下の変化する観音の総家とも称すべき観音である。
ここで変化する観音の代表的なものを見ていく。
十一面観音(福財を授かり、無病息災)
十種の誓願をもつ観音の変化身で、その誓願を示すために十一面を具えた姿に現わされている。
正面三面が菩薩面で慈悲静寂の相、左三面が忿怒の瞋面、右三面が菩薩面に似ているが白い利芽が出ている面、後方の一面が暴悪の相の笑面、頂上の一面が如来面となっていて、各々の面の頭に化仏が安置されている。
十種の請願とは
1 諸病の苦を離れる 2 如来の愛撫を蒙る 3 財宝を獲得できる
4 怨敵も危害を加えない 5 国王の慰問を受ける 6 毒蛇寒熱の苦を免れる
7 刀杖の害を受けることがない 8 水に溺れて死ぬことがない
9 火に焼かれることがない 10 天命を全うすることができる。
十一面観音はすべての憂いや、悩み、病苦、悪心を取り除くとされている。
不空羂索観音(四摂の法で衆生を摂化)
不空羂索観音の羂は、鳥や獣を捕らえる網こことであり、索は魚を釣る糸のことである。
観世音菩薩はその大慈悲から、四摂法(布施・愛語・利行・同事)という方便の網を、煩悩の山野に張り巡らして、迷える衆生を捕え、生死の輪廻の苦海に糸を垂れて沈倫している衆生を索の糸で釣って救って下さる。
しかも、世間で用いられている羂索は、捕りそこないがあるが、この観音の羂索は失敗がなく空でないゆえに不空と名づけられているという。次の現世利益があると説かれている。
1 無病息災 2 業病を除き 3美人となる 4衆人に敬愛される 5諸根を蜜護し
6多くの財を獲る 7財産を損せぬ 8事業を成就す 9種植害せられず
10精気を奪われず 11有精に尊重され 12怨じょうを畏れず 13人非人等も害する能わず
14煩悩現行せず等々。
千手観音 (諸願成就・産生平穏)
頭に11の顔をおき、体には千本の手と各々の手に各1眼を持ち、観音の王さまと言われる。
千の慈眼と千の慈手を具備して一切の衆生のために、地獄の苦悩を救済し、諸願成就、産業平穏を司る千という数は沢山、無数の意味をもつもので、観音の救済の手の及ぶ範囲が広大で無量であることを現しているものである。
全ての修生に利益と安楽を与える観音で、この世のあらゆる出来事を見通し、救済の手を差しのべるという請願をもつことから、慈悲の心が無限にあることを示している。
変化する観音はこの辺でやめる。
観音の種類だが真言系では、聖観音、十一面観音、千手観音、馬頭観音、如意輪観音、准胝観音を六観音としている。
一方天台系では、准胝観音の代わりに不空羂索観音を加えて六観音としている。
六観音は六道輪廻(ろくどうりんね、あらゆる生命は六種の世界に生まれ変わりを繰り返すとする)の思想に基づき、六種の観音が六道に迷う衆生を救うという考えから生まれたもので、地獄道は聖観音、餓鬼道は千手観音、畜生道は馬頭観音、修羅道は十一面観音、人道は准胝観音、天道は如意輪観音という組み合わせになっている。
以下、真言系の六観音に天台系の不空羂索観音を加え7観音としたり、十五尊観音、三十三観音もあるようだが、これらは省略してここで薬師寺を終える。
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