ロシア人が遠く旅行したくなるプーシキン

 あるロシア文学者がプーシキンについてこう語っている。
 「プーシキンを読めば、ロシア人は遠く旅行をし、多くの本を読んだような気分になれる。」
 ロシアではすべての人がプーシキンを知っている。
 プーシキンの名前を聞くとロシア人の心は喜びと軽やかさと感謝でいっぱいになるという。
プーシキンと同時代の作家ゴーゴリは「プーシキンは並外れた人で、ロシアの魂の唯一の現れである。200年先のロシア人ほどに進化した完璧な人である。」
作家のアクサーコフは「プーシキンの詩は善(恩恵、恵み)そのものである。」
 哲学者のロザーノフは「もしプーシキンが長生きすれば、ロシアの歴史はすっかり変わってしまうかもしれない。」
 批評家のアイヘンヴァルトは「プーシキンの詩には人の上下関係・貴賤がない。彼は奴隷も皇帝も平等に詩に詠った。彼の詩には聡明さと調和と不変の深いオプチミズムがある。」と指摘。

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そのプーシキンの詩を1・2覗いてみる。


「 忘れない、あの美しいひととき 」 


忘れない、あの美しいひととき
あなたが私の前に現れた時を
まるで束の間の幻のように
美しい妖精のように

あてどない悲しみの中
空しい日々の暮らしの中
幾度あなたの声を
いとしい姿を夢にみたことか

時が過ぎ、嵐が荒々しくも
夢を蹴散らしてしまった
わたしはあなたのやさしい声を
美しい面影を忘れてしまったのだ。

遠く離れた流浪の暗闇の中
私の日々は過ぎ去っていった
信仰も 感激も
涙も 愛もない暮らしが

しかし、魂が目覚める時が来た
あなたが再び現れたのだ
まるで束の間の幻のように
美しい妖精のように

心は喜びに高鳴り
そして蘇ったのだ
信仰も 感激も
涙も そして愛も



「 遠きふるさとの岸辺に 」   


遠きふるさとの岸辺に向けて
君はこの異郷の地を離れる
この忘れ難き時、悲しみの時に
私は君の前で、思い切り泣いた

私の凍える手は
君をここに留め置こうともがき
恐ろしき別れの苦悩の中
私は行くなとうめいていた

だが君はくちびるをそむけた
私の苦いくちづけから
この暗い逃亡の地から
他の土地に私をいざなった

君は言った「今度会う時は
青い空の下
オリーブの木の陰で
キスを交わしましょう」

ああ、だがその遠いかの地
青く輝く空と
水が麗しいかの地で
君は永遠の眠りについた

君の美しさも、そして悩みも
墓石の下へと消えてしまった
甘いくちづけの約束もまた...
でも私は永遠に待つ、君との約束を

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