新神戸ものがたり その2 雌滝と生田川沿いの歌碑

 新幹線新神戸駅から北へ徒歩3分くらい歩くと、生田川に架かるレトロな砂子橋(いさごばし)が見えてくる。
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 正確には「布引水路橋」といい、布引の滝で取水した水を浄水場へ送る水路を兼ねていて、1900年竣工の国指定重要文化財である。


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 橋の下を流れる生田川の水量は僅かで、たぶんこれくらいの水量が普通の状態なのだろう。


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 説明看板によれば、砂子橋を渡って生田川沿いの道を上がっていくと、雌滝、鼓ケ滝、夫婦滝、雄滝と順番に滝が見えてくるはずである。


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 砂子橋を渡って5分ほどで最初の滝が見えてきたが、この滝が雌滝である。



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 しなやかで上品な雌滝の高さは19mで、雌滝への道の傍に歌碑があった。

 明治のはじめ頃(明治5年か)、花園社という市民団体ができ、滝の周辺を布引遊園地として、平安時代から江戸時代にかけて詠まれた布引の滝の名歌の碑 36 を建てた。

 これらはその後散逸してしまい、1934年に当時の神戸市観光課が 18 基を復興し、これらのうち 17 基(1基は阪神淡路大震災で喪失)は現在でも新神戸駅からみはらし展望台に至るハイキング道沿いに点在している。

 近年、中央区役所が未復興のうち の14 基を復興したということである。


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 この雌滝への道の傍の歌碑は藤原良清の作で



   音にのみ聞きしはことの数ならて


    名よりも高き布引の滝



 という歌である。


 ついでに、布引の滝の名歌36をここで紹介する。


1 布引の滝のしらいとなつくれは 絶えすそ人の山ちたつぬる(藤原定家)


2 あしのやの砂子の山のみなかみを のほりて見れは布ひきのたき(藤原基家)

3 布引の滝の白糸わくらはに 訪ひ来る人も幾代経ぬらむ(藤原行能)

4 津の国の生田の川の水上は 今こそ見つれ布引の滝(藤原基隆)


5 水の色たた白雪と見ゆるかな たれ晒しけむ布引のたき(源 顕房)

6 音にのみ聞きしはことの数ならて 名よりも高き布引の滝(藤原 良清)


7 さらしけむ甲斐もあるかな山姫の たつねて来つる布引の滝(藤原 師実)

8 山人の衣なるらし白妙の 月に晒せる布引のたき(藤原 良経)

9 山姫の嶺の梢にひきかけて 晒せる布や滝の白波(源 俊頼)


10 幾世とも知られぬものは白雲の 上より落つる布引の滝(藤原 家隆)

11 いかなれや雲間も見えぬ五月雨に さらし添らむ布引の滝(藤原 俊成)

12 岩はしるおとは氷にとさされて 松風おつる布引のたき(寂蓮 法師)


13 白雲とよそに見つれと足曳の 山もととろに落つる滝津瀬(源 経信)

14 水上の空に見ゆれは白雲の 立つにまかへる布引の滝(藤原 師通)

15 呉竹の夜の間に雨の洗ひほして 朝日に晒す布引の滝(西園寺 実氏)

16 うちはへて晒す日もなし布引の 滝の白糸さみたれの頃(藤原 為忠)


17 水上は霧たちこめて見えねとも 音そ空なる布引のたき(高階 為家)


18 水上はいつこなるらむ白雲の 中より落つる布引の滝(藤原 輔親)


19 岩間より落ち来る滝の白糸は むすはて見るも涼しかりけり(藤原 盛方)


20 松の音琴に調ふる山風は 滝の糸をやすけて弾くらむ(紀 貫之)

21 たち縫はぬ紅葉の衣そめ出てて 何山姫のぬの引の滝(順徳院)


22 ぬきみたる人こそあるらし白たまの まなくもちるかそての狭きに(在原 業平)


23 我世をは今日か明日かと待つ甲斐の 涙の滝といつれ高けむ(在原 行平)


23別 こきちらすたきのしら玉拾ひおきて 世のうきときのなみたにそかる(在原 行平)

24 雲井よりつらぬきかくる白玉を たれ布引のたきといひけむ(藤原 隆季)


25 久かたの天津乙女の夏衣 雲井にさらす布引のたき(藤原 有家)


26 ぬのひきのたき見てけふの日は暮れぬ 一夜やとかせみねのささ竹(澄覚法親王)

布引のたきつせかけて難波津や 梅か香おくる春の浦風(澄覚法親王)


27 たち縫はぬ衣着し人もなきものを なに山姫の衣晒すらむ(伊勢)


28 ぬしなくて晒せる布を棚はたに 我こころとやけふはかさまし(橘 長盛)


29 雲かすみたてぬきにして山姫の 織りて晒せる布引のたき(加藤枝直)

30 主なしと誰かいひけむおりたちて きて見る人の布引のたき(小沢蘆庵)


31 くりかえし見てこそ行かめ山姫の とる手ひまなき滝の白糸(鈴木重嶺)


32 布引の滝のたきつ瀬音にきく 山のいはほを今日見つるかも(賀茂真淵)


33 たち縫ぬ絹にしあれと旅人の まつきて見や布曳の滝(賀茂季鷹)


33別 分入し生田の小野の柄もここに くちしやはてむ布曳の滝(賀茂季鷹)


34 布引のたきのしらいとうちはへ てたれ山かせにかけてほすらむ(後鳥羽院)

蛍とふあしやの浦のあまのたく 一夜もはれぬ五月雨のそら(後鳥羽院)

35 世と共にこや山姫の晒すなる 白玉われぬ布引のたき(藤原公実)

36 たちかへり生田の森の幾度も 見るとも飽かし布引の滝(源 雅実)

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