探険家の歴史 第2部最終章 ナイル河の旅 その9 源流にて(ファイナル)

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   セネシオの繁茂するルェンゾリ(月の山)




 ナイル河には三箇所の源流地点がある。

 一つ目は、1862年に、探検家スピークが発見したビクトリア湖から流れでる川の最上流地点である。そこにはナイル河源流の碑が建てられている。この地点は、一般的にはナイル河の源流として大多数の人々に受け入れられている。



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   ↑ナイル河源流の碑



 歴史的には19世紀まで、プトレマイオス(2世紀)の古地図に記された、月の山脈(Lunae Montes)から流れ出した小川が2つの湖にたまり、そこをナイルの源流とした学説が、二つ目の源流地点として長い間多くの人々の間で信じられていた。



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   ↑プトレマイオス(2世紀)の古地図


 現在では、ウガンダとコンゴの国境に位置するルェンゾリ山群がプトレマイオスの記した月の山脈(Lunae Montes)であるとされている。

 二つ目の源流地点(ルェンゾリ山群)は、探検家スタンリーによって1889年発見された。


 三つ目は、ビクトリア湖に流れ込む川にこそ源流があるとしてビクトリア湖流入河川中最大の川「カゲラ川」を遡上した探検家カントによって発見された。

 そこは、カゲラ川支流「ルヴィロンザ川」の源流地帯、ブタレ近郊のルカララの沢、そこには「ナイルの源」と記され小さなピラミッドが建てられている。



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  ↑赤マーク点がブタレ近郊のルカララの沢


 この地点から地中海河口までが6695kmとなり、ナイル河の河川延長距離の最源流計測地点となっている。






 一つ目の源流は、先回踏破した。

 残る二つの源流を、今回は目指したい。

 ナイル河2つ目の源流であるルェンゾリ山群は、万年雪の氷河を頂く山である。



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  ↑万年雪のルェンゾリ山頂付近


 ルウェンゾリはキリマンジャロ山とケニア山に続き、アフリカ第3の高峰。

 この山地は、寒気と豊富な降水量で出来た広大な氷河があり、ここから流れ出る水により、赤道直下にもかかわらず、毎年豊かな実りがもたらされていた。

 しかし、地球規模の温暖化の影響で、氷河の面積は20世紀の間に84%も縮小、氷河は十数年以内に消滅してしまうと予測されている。


 ルウェンゾリ山群の麓に、バコンジョ族(人口40万ほど)やバアンバ族(人口2万ほど)と呼ばれる先住民が住んでいる。



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  ↑髪を結いあうバコンジョの女たち


 豊富な食料のもと、彼らなりの豊かな生活をしていたが、氷河の縮小は、長期間に及ぶ干ばつをもたらし、作物生産量の減少による飢饉(ききん)が多発、急激な温暖化は生態系を歪め、高地でのマラリア感染まで広めた。

 バコンジョの宇宙論では、雪はナズルル(Nzururu)と呼ばれ、神である。

 この神の子がキタサンバ(Kitasamba)で、氷河で覆われた山の峰に住み、自然環境とバコンジョ族の生命を支配する巨大な力となって君臨している。

 ここでは、バコンジョ族が欧米文化を取り入れ、伝統的な習慣を忘れていったことにキタサンバが激怒、その結果氷河の後退が起きたと考えられている。


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  ↑減少する氷河


 実際には、急激な人口増加による大規模な森林破壊が最も大きな原因と考えられている。

 ツチ族とフツ族の紛争によりブルンジ、ルワンダの難民が大挙してこの地になだれ込み、樹木は薪となり、動物は食べ物となり、赤道直下の奇跡にも似た豊かな土地に、飢餓が日常的に蔓延した。



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 ↑紛争により大量殺戮されたフツ族の頭蓋骨の山




 日本漫画界の神として君臨した手塚治虫の代表作に『ジャングル大帝』というのがある。

 白いライオンとしてナイル源流域に君臨した「ジャングル大帝レオ」、あの作品の舞台となったのが実はルェンゾリ(作品中には、一年中雪に覆われたムーン山として登場)。



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   ↑「ジャングル大帝レオ」の雄姿


 レオは物語のラストで、探検隊の道案内を引き受けてムーン山へ登った。

 このレオにも似た王国が、かって、ここにあった。

 バコンジョ族やバアンバ族からなり、独立宣言までした「ルウェンズルル王国」だ。



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 ↑赤がトロ王国、緑の枠に囲まれた部分がルウェンズルル王国


 ルウェンゾリとは「雨の山」という意味だが、ルウェンズルルとは「雪の山」という意味。 神の子「キタサンバ(Kitasamba)」の復活である。

 「ルウェンズルル王国」はウガンダとトロ王国からの独立を宣言、1963年2月13日から1982年8月15日まで独立戦争を行った。(アミン大統領時代のこと。)


 ナイル河二つ目の源流地は、絶対に行きたい場所だった。

 ウガンダの首都カンパラから登山基地の町カセセへ、そして登頂出発の地となる「イバンダ村」に到着した。



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  ↑イバンダ村の子どもたち


 「イバンダ村」は山麓に点在するふつうの村で、バナナやキャッサバを育て、牛や山羊(やぎ)などの家畜を追う暮らしをしている。

 登山者にはガイドの雇用が義務づけられ、バコンジョの貴重な現金収入となる。

 僕の現地ポーターは、現職教師のエレナ・ピーター34歳、ひとりの妻と3人の子持ちだ。

 飄々として、それでいて頼りになった。


 僕はジャングル大帝のレオを気取り、月の山の頂きを目指し、相棒のピーターと登山を開始した。

 4日目、彼と、あたり一面コケと6mにもなるヒースで覆われた、太古の森のような風景の、泥沼の熱帯雨林を抜ける。



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  ↑こんな感じの森が続いた・・・


 5日目、突然ジャイアントロベリアが眼前に出現、別世界のような湿原風景となった。

   

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  ↑ジャイアントロベリア


 更に翌日は、ジャイアントセネシオが登場し、幻想の世界に迷い込んだかと真面目に疑う程の桁外れの風景の中、ブシュク湖畔に到達、ブジュク小屋に泊まった。(ここまでで6日かかった。)

   

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   ↑ジャイアントセネシオ


 翌日は、エレナ氷河の末端から流れ出る、ナイル河最初の一滴となる地点に辿り着き、最源流の大河の一滴を一気に飲み干した。美味かった。(ナイル河第2の源流を制覇!!)

  

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 ↑エレナ氷  河の末端


 その日はエレナ小屋に泊まり、翌日、最高峰のマルガリータ峰(5109m)に登頂した。



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   ↑マルガリータ峰頂上です。


 頂上に、ルウェンズルル王国の旗を立ててやった。



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  ↑白丸は雪を表し、お猿さんは「不可侵の領土」を象徴する。


 プトレマイオス時代からの憧れの山を、とうとう制覇した。

   

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   ↑マルガリータ峰からの絶景







 三つ目の源流、そこから地中海河口までが6695kmとなり、ナイル河の河川延長距離の最源流計測地点となる場所は、ブルンジという国にあった。

   

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   ↑町を警備中のブルンジの兵士


 「カゲラ川」を遡上した探検家カントによって発見された「ルヴィロンザ川」の源流地帯、ブタレ近郊のルカララの沢。

 案内書のとおり、そこには「ナイルの源」と記され小さなピラミッドが建てられているという。

 ただ、ツチ族とフツ族による内戦により命の補償ができないとのことで、今回はいけなかった。(少々心残りではあるが・・・)

 個人的な意見だが、やはり一番源流に相応しい地は、プトレマイオスの時代からの月の山脈(Lunae Montes)、ルェンゾリ山群だったね。




 ここで、問題です。

次のうち、アフリカ最貧国(世界一の最貧国)であるブルンジのことを記載してあるのは何番ですか。正解は一つだけ。番号をコメント欄に。


① 首都はドドマである。

② 現在の大統領は、ポール・カガメである。

③ フツ族のツチ族に対する大量虐殺があった。

④ 山岳と起伏の激しい高原のため“アフリカのスイス“と呼ばれている。


 これでナイル川終了、しばらくの後、第3部をアップします、再現!(^^)!


        

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