丸山薫の詩
「釣り師」のオフシーズンの楽しみと言えば読書となる。
そんな生活の中で、丸山薫のこんな詩を見つけた。
「 釣り師」の心に沁みます!!!
狼群
狼の群が旅人を追っていた
日没になると かれらは
野営の焚火(たきび)をとりまいて迫った
旅人は薪(まき)を投げて防いだが
朝になると
犬が一頭ずつ姿を消した
犬の仲間に紛(まぎ)れこんできた
犬とも狼とも見分かぬ獣達が
しだいにその数を増してきた
かれらは唸(うな)り 噛(か)み合い 牙を剥(む)いてぶつかり合い
橇(そり)はかれらに導かれ 曳(ひ)かれて
雪の曠野を走りつづけた
――犬はさらわれて狼になったろうか?
――狼は繋(つな)がれて犬になったろうか?
ともあれ この思考は
私の頭を痛くする
(詩集『花の芯』から)
未来へ
父が語った
御覧 この絵の中を
橇(そり)が疾く走っているのを
狼の群が追い駈(か)けているのを
馭者(ぎょしゃ)は必死でトナカイに鞭(むち)を当て
旅人はふり向いて荷物のかげから
休みなく銃を狙(ねら)っているのを
いま 銃口から紅く火が閃(ひらめ)いたのを
息子が語った
一匹が仕止められて倒れたね
ああ また一匹躍(おど)りかかったが
それも血に染まってもんどり打った
夜だね 涯(はて)ない曠野(こうや)が雪に埋れている
だが旅人は追いつかれないないだろうか?
橇はどこまで走ってゆくのだろう?
父が語った
こうして夜の明けるまで
昨日の悔いの一つ一つを撃ち殺して
時間のように明日へ走るのさ
やがて太陽が昇る路のゆくてに
未来の街はかがやいて現れる
御覧
丘の空がもう白みかけている
(詩集『涙した神』から)
丸山 薫(まるやま・かおる)
明治32年(1899年)、大分県に生れる。
幼少時は、父の転任に従って地方を転々としたが、冒険
小説を愛読し、中学時代にはキングスレイやスティヴン
スンに熱中した。
高等学校に入ると唯美主義文学に惹かれ、ポーやワイル
ド、潤一郎、春夫、朔太郎を耽読した。豊橋中学を卒え、
東京高等商船学校に入学したが、健康を害して退学。
志を転じて、三高より東大国文科に学び、再び中退する。
東大在学中、第9次「新思潮」に参加、のち「椎の木」
の同人となるにいたって新しい抒情詩の方向を辿る。</strong>
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